潮流発電装置の実験模型

 3Dプリンタを積極的に活用した設計例として潮流発電装置の実験模型をご紹介します.この模型は直径40㎝のローター直径を持つ、水槽実験用模型です.狭い海峡部などの制限された水路に設置される潮流発電装置では装置間の流体力学的干渉による性能低下や、水面が近いことによる波浪や水深の性能に及ぼす影響などが風車とは異なった難しい問題となります.そのため単機ではなく複数の装置の配置や水深を変更しての実験を行う必要があります.この例ではお客様のご要望と予算内で実施可能なシステムを実現すべくFREGATA TECHにて実験装置の企画・設計をお手伝いしました.



 この潮流発電装置の形式は水平軸型と呼ばれるたいへん一般的な形式で、風力発電装置などでもよく見られる形式です.実験装置を企画するにあたって得られた各種データをシミュレーションの精度向上に役立てるために、実物の特徴をとらえつつも、シミュレーションを困難にする余計な要因をなるべく排除したシンプルな外形としています.この円筒型のナセル内部には回転数を制御する小型ACサーボモーター(発電機)とローターの回転を増速して伝える増速機からなる駆動系が組み込まれており、水中でこのサイズの実験を行う上で必要な超低速回転域でもACサーボモーターによるスムーズな駆動制御が可能となっています.


実験模型の特徴として、ローター主軸とモーターやギヤからなる駆動系の分離があります.この2つはナセルケース内で水密隔壁により完全に切り離され、専用設計のマグネットカップリングによる非接触型の動力伝達が行われています.このマグネットカップリングにはネオジムマグネットによるハルバッハ配列が使用され40㎝のローターから受ける強力なトルクをスリップすることなく伝達可能となっています.この構造により軸受け部の水密化が不要となり、シール摩擦による計測への影響や駆動・電装系への漏水によるダメージの心配を大きく低減することに成功しました




もうひとつの特徴としてトルクの計測方法があります.通常この種のプロペラや発電ローターの実験を行う際は軸にひずみゲージなどを取り付けた特殊なセンシング部とスリップリングなどを介して電気信号を伝達してトルクを計測しますが、これは一般的には高価な特注品となります.防水型でしかもこれらを模型のような小直径のナセル内に収めるとなると汎用品は事実上使用不可能だからです.そのためこの模型では水密区画内の駆動系を丸ごとナセルからフローティングさせボールベアリングによる回転フリー状態とし、汎用品の小型ロードセルを介して回転を拘束することで反力としてトルクを測定しています.これにより高価な特注計測部品の使用は無くなりメンテナンスも軽減したトルク測定システムを実現しています.



また製作面に関しては大学・研究機関などでの少数内製を可能とするようにブレードをはじめとしたマグネットカップリングやナセルケースなどの複雑形状部品は高精度な3Dプリンタによる出力品活用を前提とした設計が施されており、部品点数を削減するとともに製作難易度とコストの低減に成功しました.


実際の実験ではこのようなFREGATA TECHから供給させていただいた図解マニュアルと部品の3D造形データ、部品加工指示図などに沿って大学院生と技術職員による組立が行われたものが使用されています.


 複数水車での干渉実験や波浪影響、水深影響実験は曳航水槽と呼ばれる細長い水槽内を台車側が移動して流れを模擬する実験水槽で行われました.この実験では模型と同時に昇降対応の水中曳航用の治具類なども先生方のご要望に沿って内製可能な設計を供給させていただきました.